楠森堂ブログ
高齢化…技術の継承…
秋以降気温が下がり、春から夏にかけ格闘しつづけたお茶畑に生える雑草の生長もある程度収まり、この時期になるとようやく1年のお茶園の管理作業も落ち着いてきます。
その落ち着く時期に目をつけ、声をかけてくるのが果樹農家の方達
毎年11月は柿農家の収穫の加勢
私のところでも少し柿は生産していますが、柿畑は家のまわりの平坦地です。
しかし、収獲の応援に行く柿畑の多くが、ひと昔前に山を切り開いてつくった山の斜面にある畑で、平坦地の畑での収獲作業とは比べものにならないくらい体力が必要で、また危険もともないます…
昨今の異常気象で、品質、生産量も安定せず、また 嗜好品でもある果物などは、景気が悪ければ消費も落ちます。追い討ちをかけるように価格も年々下落… 後継者もいない…
うきは市の農家の平均年齢は60歳を超えています。
そして、普段平坦地で暮らしている私達はあまり目にする事はありませんが、栽培条件の厳しい少し山の手のほうに入ると、すっかり荒廃した耕作放棄地を沢山目にする厳しい現実…
この様な状況の中で昨年から声がかかり冬に応援に行く作業が、果樹園の棚栽培の棚の張替え作業。
現在行っている現場は、ぶどう農家の方の畑。
棚の張替えを依頼した方は、80歳くらいになるという男性。
まだバリバリの現役というから凄い!
これまで低く作業がしづらかった50年以上前に張ったという鋼線も劣化した棚を、作業性が向上するように新しい棚に張替え、そして、現在 外に働きに出ている息子さんが継いでくれるのを待っている… とのことでした。
資材価格が高騰し高止まりしている影響で、棚の張替えに要する費用も昔に比べかなりの高額になるといいますから…
なんとか息子さんが継いでくれるのを強く願っています
この棚張りの作業。
ひと昔前の作れば何でも売れた時代…
山は次々に切り開かれ、果樹園も一気に広がり、ぶどうや梨の栽培に必要な鋼線を縦横に張り巡らせた棚の施設の需要も大変なもので、この棚張り専門の業者やグループがうきはにも沢山いたそうです。
しかし、長引く不況と農家の高齢化、そして後継者不足で棚張り作業の需要も激減し、現在 うきは市内でこの仕事を請け負っているのは、私が昨年から加勢にいっている この一グループのみになっているそうです。
当然のことながら畑により様々に地質や環境の条件も異なり、その畑に棚を張る技術と状況判断を養うのには多くの経験が必要です。
2日間作業を続けただけで上半身は筋肉質になってしまうくらいの、かなりの体力仕事でもあります
柱と鋼線を固定するための「アンカー」という杭のようなものを専用の機具を使用し、手作業で地面に数十本打ち込んでいき、畑の周囲に柱を立てていきます。
この一連の作業が一番体力を必要とするところです。
鋼線を網の目条に、縦横に張り巡らせていきます。
ほぼ完成!
今回の作業を行った畑は土地の形状が特殊だったのと作業人員の不足で、ここまでくるのに1週間ほどかかりました
鋼線を張るときに必要な、この特殊な機具。
何十年も使用され、かなり使い込まれたこの機具も今は製造されておらず手に入らない貴重なものだそうです。
この棚張りのグループを長年一人で指揮されてきたEさん。自らも果樹を栽培してあります。
農家の厳しい現状や考えもよく理解されてあり、市外の棚張り専門業者に比べ低価格で仕事を請け負い、また 誰もが認める棚張りの貴重な技術と状況判断。
そのEさん…「この機具が全部壊れて使えなくなった時が、俺も辞め時かな…」ともおっしゃってありました。
今年度の冬は、例年以上に棚の張替えの依頼が多く、作業もかなり遅れぎみ…
Eさん本人も持病を持ち体長も今年は特に優れない様子…
その影響から請け負った仕事が完璧に仕上げられない可能性があり… 「仕事の腕が落ちたね…」と周りから思われることが長年続けてきた職人(プロ)のプライドとしては一番許せない…とおっしゃってありました。
まだ仕事はなんとか続けられますが腕に陰りが見え始めた今、何十年も続けてきた棚張りの仕事を辞める事も考えられてあるようです…
現在 作業は私を含め5名ほどで行っており、私以外は皆さん果樹農家。
その内若手は、この仕事に私を誘った同じ年の友達と私だけ…
若手である私達2人にこの棚張りの技術を伝えようと、他の皆さんから一生懸命教え込まれています。
しかし、私も自分(茶農家)の仕事の合間にしか作業の応援に行く事はできません。
果樹の生産が盛んなうきは市です。
今年、棚の張替え依頼が多かったように、これから先もまだまだ棚張りの技術は必ず必要とされます。
そして、農家の側に立って低価格で棚張りの仕事を行うグループも他にはありません。
うきはの果樹農家の若い方達が、この棚張りの技術を守って行く為に立ち上がってほしい…と切に願っています。
今のタイミングしかありません。